香月洋一郎氏(民俗学:前神奈川大学教授)の講演と討議
高校作文教育研究会と、鶏鳴学園の共同開催で、講演会を行います。
聞き書きはとても豊かな可能性を持った方法ですが、それだけに実に多くの、そして根源的な難問を孕んでいる方法でもあります。
だからこそ、圧倒的な豊かさと可能性を持っているのですが、その難問の前に立ちすくむことも多いと思います。
それを一緒に考えてみませんか。
また今回は民俗学の現在を知る良い機会でもあります。
民俗学の意義は、私たち日本人が、近代化や、敗戦と戦後の高度経済成長の過程で失ったものを考えるようになることです。
それは私たちの社会の表面からは消えたように見えながら、実際は社会の基底をなし、私たちの無意識の部分を支配していることが多いと思います。
日本の民俗学は柳田国男に始まりますが、宮本常一はそれを深めました。
それは『忘れられた日本人』岩波文庫(「土佐源氏」「梶田富五郎翁」を収録)を読むとよくわかります。
これが聞き書き作品です。今回の講演者の香月氏は宮本の直弟子の方です。
記
(1)日時 5月21日(日曜)午後1時より午後4時半まで
(2)場所 鶏鳴学園
〒113-0034 東京都文京区湯島1-3-6 Uビル7F
ホームページ http://www.keimei-kokugo.net/
※鶏鳴学園の地図はホームページをご覧ください
(3)参加費 1千円
(4)参加をご希望の方は、下記、お問い合わせフォームにて、開催日の一週間前までにお申し込みください。
https://keimei-kokugo.sakura.ne.jp/sakubun-contact/postmail.html
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1.講演者・香月洋一郎氏について
1949年福岡県生まれ。
一橋大学社会学部卒業。
日本観光文化研究所所員を経て、2009年まで神奈川大学経済学部教授、日本常民文化研究所所員。
香月氏は民俗学者ですが、『忘れられた日本人』などで有名な宮本常一氏の直接の薫陶を受けた方です。
著書ですが、民族誌としては『山に棲む―民俗誌序章』(未来社)『海士(あま)のむらの夏―素潜り漁の民俗誌』(雄山閣)、聞き書きについては『記憶すること・記録すること―聞き書き論ノート』(吉川弘文館)があります。
他に『むらの鍛冶屋』『空からのフォークロア―フライト・ノート抄 』『猿曳き参上―村崎修二と安登夢の旅』『景観のなかの暮らし―生産領域の民俗』『フィールドに吹く風―民俗世界への覚え書き』など多数。
2.講演と討議について
(1)聞き書きについて
鶏鳴学園の代表の中井は、高校作文教育研究会に関わっています。
そこで数年間にわたる聞き書きについての共同研究を行ったことがあります。
その時に、数々の難問に遭遇しました。
聞き書きの文体はどうあるべきか。
話が事実とは違う場合、それをどう考えるべきか。
その話の中に、ドラマのような劇的な内容がある時に、その表現も劇的な構成やドラマ性を表現できる文体になる。
それをどう考えたらよいのか。
さらには、人が自分の経験を「語る」とはどういうことか。
それを聞く聞き手と話し手とはどういう関係なのか。
人が意識している人生の記憶とはどういうものなのか。
これらのかなり根源的な問いにぶつかり、それを考えている中で、1冊の本に出合いました。
それが『記憶すること・記録すること -聞き書き論ノート-』(吉川弘文館)です。
私が問題にしていることが、そこでも問題にされ、深く考え抜かれていました。
やっと出会うべき本と人に出会えたと思いました。その本の著者が香月洋一郎さんです。
(2)宮本常一について
香月さんのそうした試行や模索の根底には、民俗学の巨人・宮本常一がいるようです。
香月さんは宮本さんの弟子であり、その方法と考え方、生き方の大きな影響下にあるようです。
香月さんには、その宮本の行動、思想、それと言葉との関係を話していただきます。
宮本の有名な『忘れられた日本人』(その中に「土佐源氏」「梶田富五郎翁」などが収録)についてもうかがいます。
この『忘れられた日本人』は聞き書き作品ですが、最高の文学でもあり、日本人とは何かを考え、日本人がその近代化、戦後の高度経済成長の過程で失ったものを考えるための最良のテキストでもあると思います。